何もなかったGWを終えて

雲の飛行機

家から半径200mのGW

今年のゴールデンウィークはCOVID-19パンデミックの影響で、基本的にはどこにも出かけないまま終わった。まだ人気の少ない朝早い時間に子どもを公園に連れて行き、その後、必要があれば、開店直後でやはり人の少ないスーパーに1人で買い物に行く。

すべてが自宅から半径200m程度の円の中に収まる行動範囲である。歩いて5分もかからない最寄駅にさえ行くことはなかった。ましてや、空港に行くなど思いもよらないことであった。
 

ネットで見かけた気になるニュース

ほぼ家の中で過ごしていたので、いつも以上にネットサーフィンの時間も増え、普段ならタイトルだけを見て無視するようなニュースなども、ついつい暇に飽かせて見ることが多かった。その中で一つ気になったのが、GW期間中、沖縄行きフライトのファーストクラスやプレミアムクラスが満席というニュースである。

ニュースの概要としては以下の通り。

  1. GW期間中、JALとANAの羽田 - 那覇間は空席の目立つエコノミークラスに対して、上位クラスは満席やそれに近い便がある。
  2. 上位ステータスを目指す「修行僧」という人たちが存在していて、沖縄に着いた途端にとんぼ返りする変な人たちである。
  3. 海外と比して日本は上位ステータスが取得しやすく維持もしやすいために、狙って修行する人が増えている。
  4. JALとANAはこのステータスポイントが2倍になるキャンペーンを3月頃から行った。
  5. このキャンペーンが「修行僧」の不要不急の外出を促したのではないか。
  6. 海外の航空会社と同じように最初から来年度のステータス延長をすべきで、制度設計のミスではないか。

残念ながら、実際にファーストクラス席を埋めていたのが修行僧なのかどうか、そして、修行僧であったとして、それはこのキャンペーン故に新規に予約したものなのか、あるいは、以前から予約を入れていたとしても、このキャンペーンがなければキャンセルしていたかどうかといった辺りの検証が一切なく、色々な事実をつなぎ合わせてはいるものの、推測の域を出ておらず、後一歩踏み込みの足りない記事であった。

ただ、昨今流行の自粛警察の類ではなく、したがって、こんな時期でも「修行」をやめようとしない人たちを責めるのが主意ではなく(この辺りは、今が踏ん張りどころというような遠回しの表現に留めている)、JALとANAのキャンペーンが失敗だったのではないかというのが本筋の主張である。
 

FOP2倍キャンペーンのその後

正確な日付を覚えている訳ではないが、ネットニュースなどで見る限り、ANAがこのキャンペーンを発表したのが3月19日、JALが3月25日のことである。オリンピック延期決定が3月24日なので、この時点では、まだ緊急事態宣言など不要だと政府がかたくなに言い張っていた。おそらく、一部の医療従事者や感染症の専門家などを除けば、政治家や役人も含めてほとんどの日本人が(もちろん筆者も)、今回のパンデミックを過小評価していたか、その重大さに気づかないふりをしていた頃である。

4月中は無理でも、うまくいけば5月には、遅くとも6月には、またあちらこちらへと出かけることのできるようになっているのではないかと考えていた人も多いはずだ。事実、最初に「ここ1〜2週間が正念場」と言われた2月末から3月頭を超えて、3月後半の連休では折からの陽気に誘われたのか多くの人が出かけて、感染拡大を誘発してしまっている。

先に発表したANAが6月いっぱいの搭乗分までが2倍キャンペーンの対象であったのに対して、後出しのJALは7月いっぱいという色気を出しており、つまりは、6月から7月のパンデミックが収まった後の搭乗を大いに期待していた節はある。

その意味では、このキャンペーンは正に読みを二重に誤った。一つには、COVID-19パンデミックの収束時期を当時の他の多くの日本人と同様に読み誤ったのであり、もう一つは、収束前に危険を冒してでもこのキャンペーンの恩恵に与ろうとする人の数を読み誤ったと言える。

GW明けにはキャンペーンが実質的に中止となり、5月10日までに予約した分しか対象としないことをJALが発表したのは、当然の流れであろう。ここから逆算するに、やはり、GWのファーストクラスを埋めていた乗客は、その行動パターンなどからして「修行僧」であった可能性が高いのであろう。
 

趣味人に求められる行動規範

このニュース自体は各所で大きく取りあげられていたというほどのものではなく、したがって、すぐに「修行僧」のバッシングという雰囲気にはなっていないようだが、やはり、世間に一定程度のマイナスイメージは植え付けられたであろう。

上級会員のステース欲しさにひたすら飛行機に乗り続ける、興味のない人には理解しがたいこの行動は、もとより個人の趣味に基づくものであり、一定範囲内、大雑把に言えば、他人に迷惑をかけない範囲であれば、なんら責められるべきものではない。

しかし、ステータス修行は公共交通機関を利用するという点で、例えば、自分の家の中だけで完結する何かのコレクションのような趣味とは違い、一線を越えたときの代償は小さくない。

鉄道の写真を撮りたいが為に、一般乗客の邪魔になったり、あまつさえ、罵声を浴びせかける、あるいは、撮影に写り込んで邪魔な木を切り倒してしまうような、いわゆる「撮り鉄」。車好きが高じて、車検に通らないような違法改造を施したり、車の性能を引き出したいのか、あるいは、自分のドライブテクニックの限界を試したいかのような危険な運転をする「走り屋」。

電車の写真を撮ることも、自分の車を飾り立てることも、車を運転することも、それ自体は何一つとして問題ではない。しかし、公共交通機関である鉄道を利用する、あるいは、公道を走行するという点で、必ず関係のない他人との接点が生じるのであり、一定程度の社会規範の遵守が求められる。それを逸脱するとき、世間はそのような趣味行為を敵視するようになる。その極端な例が「暴走族」なのである。まあ、これは社会規範の逸脱どころが、法を犯しているのだが。

もちろん、多くの「撮り鉄」は規則を守る常識人であろうし、「走り屋」も危険行為を犯さない人の方が大半だろう。しかし、一事が万事とばかりに、ごく一部の非常識な、しかし、その分だけ目立っている存在が、「撮り鉄」や「走り屋」のイメージをまるごと下げてしまう。

さて、GWに大挙して沖縄まで飛行機に乗りに行った「修行僧」はどうであろうか。もちろん、JALの場合ファーストクラスは1便当たり最大でも14席しかなく、1人1人はそれぞれ個別に行動をしているであろうし、また、マスクをするなど可能な限りの感染防止策をとっていたであろうが、世間はそれを14人の集団と見做すだろう。そして、ファーストクラスの設定が1日に5便あったとすれば、合計で70人の集団なのだ。

感染拡大の防止が社会的な最喫緊事項であり、各自の行動の自粛が要請されている状況で、もちろん、移動が制限されている訳でもないし、ましてや、何らかの禁止規定がある訳でもないが、沖縄自体に所用があった訳ではなく、ステータスのためだけにGWに沖縄に行った70人の集団は、世間からは常軌を逸した危険な人たちと見做されかねないのである。

もちろん、70人がまとまって行動したのでもなければ、機内を除けばどこかに固まっていたのでもないだろう。しかし、世間の目にはそう映ってしまうという話である。さらには、GWに沖縄修行をした「修行僧」は全体の極々一部でしかないだろうが、世の中の「修行僧」のイメージと評価は十把一絡げに悪くなったのである。

GWに「修行」を敢行した「修行僧」は何一つとして法令に反してはいない。しかし、ことある毎に異様なまでの同調圧力の吹き荒れる現代日本では、趣味人として自らの首を絞めかねない行為は避けた方が賢明なのかもしれない。

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