日本の端とその駅

指宿枕崎線西大山駅

日本の端っこ

年中、飛行機で国内や時には海外の(と言っても、最近はもっぱらASEAN圏だが)都市を行ったり来たりしていると、時折、列車に揺られて終着駅まで行ってみたくなる。しかし、終着駅が必ずしも旅情溢れる場所とは限らず、とある路線の終着駅は別の幹線の途中駅という方が多い。そうなると、さらにその先、地の果てまで行ってみたくなる。

波照間島


地の果てとは言っても、日本国内ならなんとか行けなくもないかと思いを巡らせてはみても、実はこれが大変なのである。

多くの人がご存じのように、北海道の稚内は日本の北の端にあるが、正確にはここがいちばん北という訳ではない。ここからバスで1時間ほどのところにある宗谷岬の沖合にある弁天島という無人島が、択捉島を除けば日本の最北端ということになるが、一般人は立ち入ることができない。

島国日本の東西南北それぞれの端は、すべてこのように民間人には上陸することの困難か不可能な小さな島ばかりである。最東端の南鳥島と最南端の沖ノ鳥島はどちらも南海の孤島、民間人の立ち入りは許されていないというより、そもそも、そこまで行く交通手段が存在しない。最西端は与那国島のさらに西へ数百メートルのところにある岩である。

自衛隊と気象庁の人間以外の上陸が認められていない南鳥島を除けば、あとはすべて無人島か岩なのである。たとえ、到達できたとしても面白みには欠けるだろう。
 

訪問可能な最果ての地

容易にかどうかはともかくとして、特別な許可なく民間人が訪れることのできる場所としては、北端が宗谷岬、東端が納沙布岬、西端が与那国島の西崎、南端が波照間島となる。

与那国島


このうち、波照間島は石垣島からの船以外に定期便でのアクセス手段がなく、もっとも到達しにくいと言えるが、それ以外は比較的近くに、稚内空港、中標津空港、与那国空港があり、空路で一挙にアクセスできる。

とはいっても、与那国は東京からの直行便がなく、那覇か石垣経由になる。その代わり、運航はJALグループのRACとなる。反対に、稚内と中標津へは羽田から1日に1便だけとはいえ直行便が就航しているが、ANAの運行であり、JAL便はこの両空港には飛んでおらず、いちばん近いところで旭川空港と釧路空港になる。

しかしながら、東京から飛行機でひとっ飛びでは風情もなにもあったものではない。やはり、最果ての地に向かうには列車か船の方が趣があってよいなどと考え出すと、与那国島と波照間島はあまりにも遠い。現実問題としては、石垣島までは航空便で、そこからは船でというのがほどよい感じだろうか。
 

鉄道で北と東の果てへ

一方、北海道にある宗谷岬と納沙布岬には、バスで1時間かからないところにそれぞれ稚内駅と根室駅があって、いちおう鉄道アクセスが可能だ。「いちおう」というのは、どちらも新千歳からは遠いのである。

新千歳から最速の列車を乗り継いでも6時間以上かかり、宗谷も納沙布も羽田を朝9時頃に出て、その日の夕方遅くにようやくたどり着ける。しかし、そこから岬までの路線バスはすでにないか、あったとしてもたどり着いた頃には真っ暗である。

宗谷岬


稚内へは札幌から特急で5時間10分から20分。新千歳空港駅を11:15に出れば17:21に稚内着である。同じ特急に旭川から乗れば13:35発なので羽田を出るのを1時間ほど遅くすることができる。

しかし、1本前の特急に乗ろうとすると、札幌7:30、旭川9:00発なので、羽田からの始発便に乗っても間に合わない。1本後だと稚内到着が深夜になる。ちなみに、1日に2本しかない各駅停車で行こうとすると、旭川から6時間である。

根室に行く場合、札幌に出る必要はなく、南千歳から釧路行きの特急に乗れば3時間半、しかし、釧路から根室へは普通列車しかなく2時間半ほど。新千歳空港駅を12:15に出て根室着が18:49となる。

納沙布岬


こちらは釧路まで空路を使うと余裕がかなり出る。同じ普通列車でも釧路から乗るのであれば、羽田12時台の釧路行きでよい。また、朝8時の便に乗れば納沙布岬には午後3時頃に着くことができ、1時間ほどの滞在で折り返しのバスに乗って根室まで戻ってきてもまだ5時台。とはいえ、日本の最東端は日没も当然早く、10月から3月、つまり、1年の半分以上は根室に戻ってきたらすでに日の沈んでしまっている。
 

最果ての駅は

さて、日本の端っこに行こうとするとたいへんなことが、これでよく分かったと思うが、鉄道の駅の東西南北の端はどこになるのかも見てみよう。たいていは人里離れた岬の突端となる本当の端っこよりは、駅の方が少しは到達し安いであろう。

最北端は稚内駅。上記で見たとおり、列車で行こうとすると中々大変である。旭川から約250km、近くまで来たからついでに寄ってみようという距離ではない。列車本数の少なさもあって、行って帰ってくるだけで1日がかりである。

最東端は根室駅の一つ手前にある東根室駅。西から東に向かう線路が根室市の街中をぐるっと南から回り込む形に走っている。根室まで列車で行く場合は必然的にこの駅も通ることになり、釧路から何とたったの2時間半(!)である。早朝の始発も含めれば、列車の本数も1日に6本ある。稚内よりはかなりアクセスがよい。といっても、現実的にはかなり行きにくく、やはり、釧路から日帰りではまともに滞在する時間も取れない。
 

最南端と最西端の駅

北と東の端はこのように行くだけでもたいへんなのだが、一方で最西端と最南端はどうかというと、これが意外にも簡単に行くことができる。いや、マイル修行をしている人なら、すでに訪問済みの可能性が高い(那覇空港から一歩も出ない純粋なる修行僧は除く)。

最南端の駅は沖縄都市モノレール「ゆいレール」の赤嶺駅、空港から一駅目である。地元の人以外でこの駅で降りたことのある人は少ないかもしれないが、なにしろ、那覇空港駅の隣である、モノレールに空港から乗ったことのある人は必ずここを通っている。

そして、最西端の駅に至っては、なんと、那覇空港駅なのである。おおまかな路線図としては、那覇空港駅が西の端にあって、そこから南東に向かい、赤嶺駅で北東に向かって曲がるといったところである。というわけで、ストイックな修行中で空港からは出ないという修行僧と、空港からホテルまではタクシーかバスを使ったという人以外は(こちらは意外と多いのかもしれない)、日本の最南端駅と最西端駅は訪問済みということになる。すべて制覇したい人にとって残るは、いかにして稚内と根室に行くかである。

なお、15年ほど前にゆいレールが開通するまでは沖縄県内には鉄道がなく、当時の最南端と最西端の駅はそれなりに行きづらい場所にあった。最南端は鹿児島から1時間半ほどのところにある指宿枕崎線の西大山駅駅。この記事トップの画像のように、駅から開聞岳が望める風光明媚な場所にあるが、有名な温泉地である指宿と大山駅までは列車本数が多いものの、そこから先は一挙に半分以下に減るのでアクセスは少ししづらい。

行ってみたい場合は鹿児島からということになり、指宿温泉に入りがてら単純往復してもいいが、そのまま指宿枕崎線を終点の枕崎まで抜けて、名物の鰹を食べてから空港行きのバスに乗るという手もある。

最西端は松浦鉄道のたびら平戸口駅である。松浦鉄道は佐賀県の有田から伊万里を通って、長崎県の佐世保までをぐるりと海沿いに走る鉄道で(実際に海際を走る区間は少ないが)、端から端まで乗ると3時間ばかりかかる長いローカル鉄道である。

たびら平戸口駅はこれまた行きづらい場所にあり、佐世保からも有田からも1時間半、博多寄りの伊万里からだと1時間だが、博多から伊万里が2時間かかるので、同じ2時間なら佐世保まで特急で快適に向かった方が楽かもしれない。

たびら平戸口駅はその名の通り平戸島への玄関口となる駅で、世界遺産である「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を構成する「平戸の聖地と集落」への最寄駅ともなる。実際には公共交通機関だけでこの構成遺産に訪れるのはたいへんなのだが、いつかは再訪してみたい場所の一つでもある。

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